自然に対して敬意を払うとか、大切にするという想いが、日本人の根底に流れていると私は思っています。

日本博では、尾上菊之助さんが日本博サポーターに就任されました。ここでは、その際に行われたインタビューの内容ををご紹介します。

おのえ きくのすけ 尾上菊之助さん

日本博サポーター

 

Q:日本博のサポーターになられたということで、自然についてお伺いしたいと思います。歌舞伎の演目の中で自然が多く扱われていると思いますが、どのようなものがありますか?

菊之助さん:歌舞伎の演目は四季を大事にしていて、春夏秋冬それぞれの演目があります。春は「義経千本桜」、それから「金閣寺」、桜がテーマになっていますね。夏は「伊勢音頭」とか「夏祭浪花鑑」のような夏の暑さ、ちょっと湿気が多い夏が象徴的に描かれていますし、秋は「菊畑」、「紅葉狩」のような演目、冬は「鷺娘」ですね。雪が降る中、荘厳の世界が描かれます。このように、歌舞伎には非常に四季を大事にした演目が多くあります。

Q:それはやはり歳時記というか、歌舞伎そのものが庶民を楽しませるものだったから、そこに季節を盛り込むことは、お客様サービスという意味でもあったのでしょうか。

菊之助さん:そうだと思います。歌舞伎は今は古典となっていますけれど、その当時はどうしたらお客様に芸能を楽しんでいただけるか、という視点で描かれています。お客様に劇場に来ていただいて四季を感じていただく。実際に四季をお客様と共有することで、舞台とお客様の距離が近くなる、ということがあったのではないかと思います。

Q:四季や自然というのは、自然崇拝や神が宿っていたりとかいうことがありますが、そういう自然に対する畏敬の念が込められていることが歌舞伎にもありますか。

菊之助さん:元をたどれば「出雲阿国」が念仏踊りを踊って、亡き魂への想いであるとか、神への捧げものとして踊っていたように思うんです。日本では何にでも神様が宿っていると考える。自然に対して、八百万の神々を奉るように、自然に対して敬意を払うとか、大切にするという想いが、日本人の根底に流れていると私は思っています。

Q:演じている中で、敬うような気持ちで役を勤められているときもありますか?

菊之助さん:そうですね。「連獅子」など獅子ものを演じる時には、神がかっているというか、なにか自分が人間ではないというような思いがありますし、獅子を演じる時には、何か神に対する敬いみたいなものを感じるときはありますね。

Q:神とか自然への畏敬の念とは別に、もう少し身近な自然でいうと、やはり歳時記的に季節のものを取り入れていく、逆にもともと歌舞伎が始まった江戸時代とか江戸の庶民にとっても自然が身近なものだった、たとえば、熊さん八つぁんのガーデニングの話をこの間聞きましたが、そういうこともあるのですか?

菊之助さん:そうですね。歌舞伎が成熟したのは江戸時代。その江戸時代というものは非常に文化として成熟していました。庶民の「熊さん八つぁん」に至るまで、ガーデニング(盆栽)を楽しんでいて、植物を愛でて各町内みんな緑を楽しむという文化として成熟した時期であったので、もちろん自然としての畏敬の念もそうですけれど、日本人はそれに手を加えて自分の庭先に造り上げるというのも極まった文化だと思うのです。自然を大事にすると同時に文化として自然を愛でるという技術を日本人は確立しましたよね。非常に文化レベル・芸術レベルが江戸時代は高かったんじゃないかと思います。

Q:歌舞伎の演目の中には、松とか梅とか植物の名前がたくさん出てきますが、やっぱり名前に取り入れたりとか着物などに取り入れたり、歌舞伎の文化の中にも自然をモチーフとして取り入れるというのもあるわけですね。

菊之助さん:着物の柄は沢山ありますね。もちろん、お姫様の役は四季折々の花を柄に入れて華やかさを出すということもあるのですけれども、華やかさを出すと同時に役の気持ちを表していますよね。私が演じた中ですと『菅原伝授手習鑑』の「桜丸」は、名前も桜丸ですし、なにか散る美しさというか、儚さが名前に現れています。また「賀の祝」という場面では自分のせいで主君を窮地に追いやってしまった責任をとって自害をするんですが、その若者の命が散る儚さというものを桜丸の衣裳は肩入れに桜の花が散っている柄で表しています。そういうところにも命の儚さという役柄の心が、自然とともに衣裳に表れていると思います。そういう創意工夫を先人たちはしてくださった、それを受け取って私たちは舞台に立っている訳なんです。

 

Q:江戸時代の人というか、植物や自然にも性格を持たせて、共通なものを見つけてみたりとか名前に入れてみたりとか、すごいテクニック、一つの芸術ですね。

菊之助さん:やはり自然と共存しているんですね。衣裳には、水の流れであったり、蓬莱山とか山の柄もありますし、四季折々の草花など、『菅原伝授手習鑑』の「松王丸」には、雪持ちの松という衣裳もあります。それはその松の枝に雪を被せることによって、自分の本心は語らないということを表していますし、本当によく工夫されていると思います。

Q:書割の舞台の背景と一体になって、自然と見に来る人達も楽しめるという…

菊之助さん:舞台の色鮮やかな世界に遊びに来ていただき、現実を少し忘れていただくという時間を共有したんだと思います。

Q:菊之助さんご自身は自然に対して、思うことがあったりとか、ご自身も楽しまれるとかありますか?

菊之助さん:国立劇場の桜は毎年楽しみですけどね。その桜の季節に出させていただくときもあるんですけれど、出させていただいてないときには、桜がとても綺麗なので、桜を見に来たりとか。車で国立劇場の周りを一周しています。あとは身近に感じると言えば、お茶の世界などはとても四季を感じることが多いですよね。お茶は、不勉強ではあるんですけれども、和菓子は好きなんです。その季節、季節をモチーフにした和菓子は非常に見て楽しいし食べておいしいという、とても工夫に溢れていますよね。

Q:先ほどの着物の柄とかで松にどんな思いを載せて、、、と同じように、和菓子にも一つ一つ、共通する日本人の、

菊之助さん:心だと思います。

Q:その辺は、今回の日本博のサポーターになられたということで、日本博は歌舞伎だけでなくあらゆる・・・、そこでは日本人と自然についてのことをテーマにしているのですけれども、歌舞伎を中心に、より多くの方、日本人にも外国人にも今までお話いただいた、日本人の気持ちとか芸術であったりとか、こんな風に知ってほしいという意気込みがあれば…

菊之助さん:もうお亡くなりになられてしまいましたけれども、津川雅彦さんがこのプロジェクトを発足されて、古典芸能のみならず日本の美術や音楽、各地に残るお祭りとか民俗芸能、全てオールジャパン、チーム一丸となって日本博というプロジェクトの中で、日本人も自分たちの芸術を見つめ直して、そしてそれを海外の方にも知っていただくという非常に素敵なプロジェクトだと思います。津川雅彦さんの想いを受け継いで、日本の素晴らしい文化を日本人の方そして海外の方にアピールできるお手伝いが出来ればいいと思っています。

Q:特に歌舞伎に関していうと、こういうとこをより多く知ってほしいな、とか海外の方にこういう風に見てもらいたいなという部分はありますか?

菊之助さん:歌舞伎は本当におかげ様で、海外の方からも見たいという声が聞こえてきます。最近ではなかなか海外公演というのも難しいですが、海外に行くと興味深くお客様が見てくださるので、今のこの状況の中、実際に生の舞台をご覧いただくというのは非常にハードルが高いことですが、実際に劇場に来ていただいて、歌舞伎に触れていただくと、何かしら感動・興奮・興味を持っていただけると自負しています。歌舞伎は、舞踊・世話物・時代物と大きく分けると3つに分かれていますが、なんでもいいと思うんです。とにかく生の歌舞伎に触れていただいて、400年以上伝わってきたもの、伝統を感じていただき、そしてそれはただ受け継いで現在やっているのではなくて、今のお客様が何を欲しているか、何を見たいかということを役者は敏感に感じ取って舞台に立っています。古典の流れと現代の流れの合流地点を私たちは舞台で表現しているわけなので、決して古めかしくない、現代に生きる演劇としてお客様に楽しんでいただけると思っています。