お知らせ

日本の文化と美術を俯瞰する
ツアーガイド(東京・奈良)

2023年9月12日

 日本の首都東京には数多の美術館・博物館が存在する。だが、空間的には北海道から沖縄までの日本列島全域、時間的には新石器時代から近代までと、日本の歴史と文化を、文化財という「もの」を通じて俯瞰できる施設は、東京国立博物館をおいて他にない。
 一方、東アジアに残る古代の都の中でも、宮殿の遺跡と付随する木造建築群が当時の姿を伝えている奈良の中心部は、世界的にみてもユニークな文化的景観が保全された地域で、「古都奈良の文化財」として、1998年にユネスコの世界文化遺産に登録されている。奈良県全域へ視野を広げれば、ほかに2件の世界遺産(法隆寺地域の仏教建造物、紀伊山地の霊場と参詣道)を擁しており、自然景観・遺跡・寺社など有形の文化財、それらとかかわる祭礼や行事などが、今もなお生き生きと立体的に保たれている。訪れるべき施設はあまりに多いが、その中の一部をここではご紹介しよう。

奈良国立博物館

東大寺、興福寺、春日大社などに奈良を代表する寺社に囲まれた、奈良公園の一角に位置する。東京、京都、奈良、福岡、北海道に設置される国立博物館の中でも、仏教への信仰が生み出した美術を中心に紹介する、ユニークな館。常設展示としては、6世紀から14世紀にかけての日本の仏像を中心に、国宝・重要文化財を含む100体前後の仏像を展示する〈なら仏像館〉、仏教美術の特別展や、所蔵・寄託の絵画・書跡・工芸品・考古遺品の名品展を催する〈西新館〉、中国古代の青銅器コレクションを展示する〈中国古代青銅器館〉などがある。また特別展の会場となる〈東新館〉では、奈良時代以後1300年にわたって伝世されてきた宝物を毎年秋に公開する「正倉院展」、あるいは東大寺のお水取り(修二会)、春日大社の若宮おん祭りなど、奈良を代表する祭礼の時期に合わせて、祭礼の背景にある歴史や文化を紹介する特別陳列など、奈良に固有の歴史と深く関わる展示を定期的に開催している。

奈良国立博物館
住所:奈良県奈良市登大路町50番地
電話:050-5542-8600(ハローダイヤル)
URL  https://www.narahaku.go.jp/
営業時間:9時30分~17時 (入館は閉館の30分前まで)
休日:毎週月曜日(休日の場合はその翌日。連休の場合は終了後の翌日)、12月28日~1月1日
   ※開館時間、休館日等の最新情報は奈良国立博物館ウェブサイトをご覧ください。
料金:名品展 ・特別陳列・特集展示
   一般…700円【団体(20名以上)…600円】
   大学生…350円【団体(20名以上)…300円】
   
   高校生以下および18歳未満の方は無料(フリースクールなども同様に適用)
   障害者の方と同数の介護者は無料(障害者手帳またはミライロID〔スマートフォン向け障害者手帳アプリ〕が必要)
   70才以上の方は無料(年齢のわかるものが必要)

東大寺+東大寺総合文化センター(東大寺ミュージアム)

8世紀、天皇による国家鎮護の願いに基づいて創建された東大寺は、「大仏」と通称される巨大な毘盧遮那仏とともに何度も被災しながら、日本における仏教信仰の中心として信仰を集めてきた。罹災のたびに再建された、時代や様式の異なるさまざまな伽藍、仏像は圧倒的な見応えがある。また南大門をくぐってすぐ左手にある東大寺ミュージアムは、「東大寺の歴史と美術」をテーマに、常設展示および特別公開・特集展示を行っている。東大寺最古の建物である法華堂(8世紀前半)内に祀られていた同時代の貴重な仏像群の一部はこちらへ移転、館内で拝することができる。

東大寺(華厳宗)
住所:奈良市雑司町406-1
電話:0742-22-5511
URL  https://www.todaiji.or.jp/
拝観時間:
【大仏殿】
 4月~10月 開門7:30 閉門17:30
 11月~3月 開門8:00 閉門17:00
【法華堂(三月堂)・戒壇院千手堂】
 開門8:30 閉門16:00
休日:無休
   戒壇堂は保存修理及び耐震化工事の為、現在拝観受付が一時停止となっていますが、令和5年10月1日より再開いたします。
   戒壇院戒壇堂の拝観停止中に特別開扉していた戒壇院千手堂は令和5年9月25日(月)を以て公開終了となります。

拝観料:
大仏殿、法華堂(三月堂)、戒壇堂、各お堂ごとに下記の入堂料をいただいております。
入堂料 大人(中学生以上)…600円、小学生…300円(団体割引ほか各種割引あり)

東大寺総合文化センター(東大寺ミュージアム)
住所:奈良市水門町100番地
電話:0742-20-5511
URL https://www.todaiji.or.jp/information/museum/
営業時間:4月~10月 開館 9:30 閉館 17:30
     11~3月 開館 9:30 閉館 17:00
休日:無休(展示替え等のための臨時休館あり。8/28から9/30まで休館。)

奈良県立橿原考古学研究所附属博物館

1938年以来、奈良県内の埋蔵文化財の調査研究を担っているのが、奈良県立橿原考古学研究所だ。その成果として蓄積してきた貴重な出土資料を中心に構成された常設展「大和の考古学」は、約2万5千年前の旧石器時代から16世紀頃までの日本、そして奈良の歴史を一望する、質量共に充実した内容だ。2021年のリニューアルに際して、展示にも最新の知見を反映。約13,000点の展示物のうち、約3割が新規展示に置き換えられた。奈良県内の埋蔵文化財を対象とするため、黒塚古墳や藤ノ木古墳といった、日本の考古学に大きなインパクトを与えた遺跡の出土品も常時鑑賞できる。

奈良県立橿原考古学研究所附属博物館
住所:橿原市畝傍町50-2
電話:0744-24-1185
URL  http://www.kashikoken.jp/museum/top.html
営業時間:午前9時~午後5時 (入館は午後4時30分まで)
休日:月曜日 (月曜日が祝日にあたる場合は開館し、その翌日休館)
   臨時休館日 (博物館の指定する日)
   年末年始 (12月28日~1月4日)
料金:一般 400円(350円)
   高校生・大学生 300円(250円)
   小・中学校 200円(150円)
   ( )内は20名以上の団体料金
   (特別展によっては、入館料が変更になる場合あり)

春日大社+春日大社国宝殿

奈良時代の768年、称徳天皇の勅命により、御蓋山の麓に社殿が造営され、以後、天皇家から民衆まで篤い崇敬を寄せられてきた古社。境内を歩く鹿は神の使いとされ、大切にされている。9-12世紀にかけて、神に奉納されてきた数多くの神宝は国宝殿で所蔵し展示されている。また春日大社の背山一体は、神域として狩猟と代採が禁止されており春日山原始林として特別天然記念物に指定され、動植物の宝庫となっている。

春日大社
住所:奈良市春日野町160
電話:0742-22-7788
URL  http://www.kasugataisha.or.jp/
拝観時間:本社参拝 開門時間 6:30~17:30(11月~2月07:00~17:00)
     萬葉植物園 9:00~16:30(12月~2月09:00~16:00)
休日:無休
拝観料:無料。本社参拝は、御本殿特別参拝のみ有料(500円)

春日大社国宝殿
住所:奈良市春日野町160
電話:0742-22-7788
URL  https://www.kasugataisha.or.jp/museum/
拝観時間:10:00~17:00 ※入館は16:30まで
休日:展示入替のための臨時休館あり
料金:一般…500円
大学生・高校生…300円
中学生・小学生…200円
(特別展によっては、拝観料が変更になる場合あり)

飛鳥宮跡

古代の有力豪族蘇我氏が拠点とした飛鳥には、588年に蘇我氏が日本最初の寺を建立、7世紀に入ると何代もの天皇がこの地に宮殿を造営した。これらの宮殿の総称を飛鳥宮という。694年の藤原京遷都にあたっては、解体した建物跡にきれいに土を被せて退去したため、耕作地となって大規模な開発を免れ、タイムカプセルに保存されたように、水田の下に損なわれることなく残った宮殿の遺構が発掘された。現在復元されている石敷広場や大井戸跡は飛鳥浄御原宮のもの。

住所:高市郡明日香村岡
電話:0744-54-3240 (一般社団法人 飛鳥観光協会)
URL  https://asukamura.com/sightseeing/517/

藤原宮跡

694年に飛鳥から遷都した藤原京は、中国をモデルとした日本で初めてとなる本格的な都城だった。ここで3代の天皇が即位し、豪族連合の長としての大王から、法と官僚に支えられた国家の長としての天皇へ、政治の枠組みをつくりかえていった。都城の中心部に天皇の住まいである内裏や、天皇が儀式や政治を行った大極殿の跡が残る。

飛鳥宮跡
住所:橿原市高殿町ほか
電話:0744-21-1114 (橿原市世界遺産登録推進課)

国営平城宮跡歴史公園

710年に藤原京から遷都した平城京は、東西約4.3km、南北約4.8kmの長方形の東側に、東西約1.6km、南北約2.1kmの外京を加えた碁盤目状の広大な京域に、約10万人の人が暮らしていたと考えられる。約1世紀後、8世紀末の遷都以後は耕作地となっていたが、19世紀頃から古代の都があったという口承に基づいて、有志による調査が始められ、8世紀の京の姿が少しずつ明らかにされてきた。近年になって一帯は公園として整備され、朱雀門や大極殿門などの復原施設、遺構展示施設、資料館などを通じて、さまざまな視点から古代の都城の姿に迫ることができる。

住所:奈良市二条大路南、奈良市佐紀町
電話:0742-36-8780(平城宮跡管理センター)
URL  https://www.heijo-park.jp/
営業時間:施設により異なる
休日:施設により異なる
料金:入園無料

東京国立博物館

人文系の総合的な博物館として、日本を中心として広くアジア諸地域にわたる文化財の展示、収集、保存、研究を行なっている。設立以来150年を超え、収蔵品の点数は現在約12万件。このうち国宝89件、重要文化財649件(2023年4月現在)を収蔵する。敷地内の本館、平成館、東洋館、法隆寺宝物館、表慶館、敷地外の黒田記念館と6館の展示施設からなり、約3000件からなる常設展「総合文化展」を基本として、年5〜6回程度の特別展を開催している。奈良とは関わりが薄そうに見えるが、世界遺産にも登録される法隆寺が、明治時代に皇室へ献納、のちに東京国立博物館の前身の帝室博物館に下賜された寺宝類を一括して展示する〈法隆寺宝物館〉は、奈良の古寺をまるごと東京へ運んできたような迫力がある。年間300回もの展示替えのおかげで、いつ訪れても新しい作品と出会うことができる、得難いMuseumだ。

東京国立博物館
住所:東京都台東区上野公園13-9
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
URL  https://www.tnm.jp/
営業時間:9:30~18:00(総合文化展は17:00まで、いずれも入館は閉館の30分前まで)
休日:毎週月曜日(祝日・振替休日の場合は翌日)、年末年始、
   ※詳細、その他休館についてはHPにてご確認ください。
料金:一般 1,000円、大学生 500円
   高校生以下および満18歳未満、満70歳以上の方は、総合文化展について無料

橋本麻里(はしもとまり)

日本美術を主な領域とするCultural Manager。小田原文化財団 甘橘山美術館 開館準備室室長。金沢工業大学客員教授。新聞、雑誌等への寄稿のほか、美術番組での解説、展覧会キュレーション、コンサルティングなど活動は多岐にわたる。近著に『かざる日本』(岩波書店)ほか、『美術でたどる日本の歴史』全3巻(汐文社)、『京都で日本美術をみる[京都国立博物館]』(集英社クリエイティブ)、共著に『世界を変えた書物』(小学館)、編著に『日本美術全集』第20巻(小学館)など多数。