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同じ作品は二度と見られない?
年間300回展示替えを行う日本文化の殿堂
東京─美の殿堂を訪ねる

2023年9月12日

 各国の首都に、その国の顔というべきMuseumがある。いずれも充実したコレクションを楽しみに、旅行者の多くが「何はともあれ」と足を運ぶ。動物園や公園、大学など、文化施設が集まる東京・上野には5館の大規模な国公立のMuseumが置かれているが、日本の古典美術に触れるならまず訪れるべき場所が、東京国立博物館だ。

東京国立博物館本館 2階では縄文時代から江戸時代まで、時代を追って展示されており、頻繁に展示替えが行われている。「国宝室」では常に国宝作品を鑑賞することができる。

 150年にわたって受け継いできた収蔵品は、国宝89件、重要文化財649件を含め、約12万件(2023年4月現在)。東京国立博物館では6つある展示館で、これらのコレクションを常時3000件ほど公開している。他国のMuseumと異なるのは、「いつ行っても必ずあの名作が見られる」という展示にはなっていないこと。もちろん手を抜いているわけではなく、むしろその逆だ。紫外線や湿度に対して脆弱な日本の書画・工芸作品を守るため、そしてより多くの作品を紹介するため、東京国立博物館ではなんと年間300回に及ぶ展示替えを行なっている。さらに作品の主題と深く関わる季節や行事に合わせて展示物を選ぶ、というのも、ユニークな点だろう。

本館2階10室「浮世絵と衣装」 江戸時代の庶民の姿を描いた浮世絵と、そこに描かれた衣装、帯や櫛・笄・簪までを合わせて展示する。
本館1階特別4室 体験展示スペース「日本文化のひろば」 革や鉄、絹紐などを材料として、近世に用いられた鎧を複製。間近で見るだけでなく、ハンズオンコーナーでは手で触れたり、重さを確かめたりすることもできる。体験内容は時期によって変わる。
本館1階特別4室 体験展示スペース「日本文化のひろば」 浮世絵の中でも、何色もの色版を重ね摺りした「錦絵」の制作工程を学べる展示や、スタンプをつかって多色摺り浮世絵の仕組みを体験できるコーナーもある。体験内容は時期によって変わる。

 中でも2023年以降、展示が飛躍的に充実する予定なのが、茶の湯の美術だ。茶──世界中でチャノキの葉はさまざまに加工され、個性ゆたかな茶がつくられてきた。中国から日本へ茶が伝わったのは9世紀頃。以来、喫茶の習慣や茶の栽培は少しずつ根付き、16世紀には喫茶を中心とする生活文化、またそこに強い精神性が加わった芸道として発展した。現在では日本文化を代表する芸道の一つとして、その一部を簡易な形式で体験する茶会が、世界各地で開催されている。
 東京国立博物館本館の、茶の湯の美術をテーマとする展示室では、喫茶の道具、茶室に飾る書画や花入、香合、宴の食器などを、実際の茶の湯がそうであるように、その時々の客の顔ぶれや季節にあわせて、組み合わせに趣向を凝らした組み合わせとして紹介する。さらに敷地内に点在する茶室も利用して、茶碗を手にし、茶を喫する、リアルな茶の湯体験も準備しているという。

本館2階4室「茶の美術」 日本を代表する芸道、茶の湯の中で生まれたさまざまな作品を紹介する。季節にあわせた道具の取り合わせが見どころ。取材時は月に関するものを中心に、初秋から名残の風炉の季節にあわせた道具を展示。
本館2階4室「茶の美術」 『黒釉文琳茶入 銘 望月』17世紀 電力事業で財を成し、近代屈指のコレクターとして茶の湯の美術を蒐集した松永安左エ門からの寄贈による。右隣の竹茶杓(17世紀)も同様に松永からの寄贈作品。(2023年10月29日まで展示)
本館2階4室「茶の美術」 『志野茶碗 銘 振袖』16〜17世紀 志野焼の茶碗を代表する名碗のひとつ。志野焼は16世紀中葉に始まる岐阜県のやきもので、京都の茶人たちの創意と協働して発展した。(2023年10月29日まで展示)
アプリ内の地図に表示される「振袖」の写真をタップすると、その解説文が四か国語で表示される。音声解説を聞くこともできる。

茶の湯が現在のような芸道へと発展した16世紀は、世界史上の大航海時代にあたる。日本も隣接する中国や朝鮮半島ばかりでなく、ベトナムやインドネシア、さらに遠くポルトガルやスペインなどの国々と交流を持ち、遠方からもたらされる珍奇な品々を、茶の湯の道具の中へ貪欲に取り入れていった。
 外からやってくる新しいもの、珍しいものを受け入れ、消化して、自らのものとしていくことも、「日本らしさ」のひとつ。そんな「日本らしい」文化財の殿堂、東京国立博物館を訪れ、日本文化の多様性を知ってほしい。

取材協力:
東京国立博物館 学芸企画部企画課出版企画室 主任研究員 三笠景子
東京国立博物館
住所:東京都台東区上野公園13-9
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
URL  https://www.tnm.jp/
営業時間:9:30~18:00(総合文化展は17:00まで、いずれも入館は閉館の30分前まで)
休日:毎週月曜日(祝日・振替休日の場合は翌日)、年末年始、
   ※詳細、その他休館についてはHPにてご確認ください。
料金:一般 1,000円、大学生 500円
   高校生以下および満18歳未満、満70歳以上の方は、総合文化展について無料

橋本麻里(はしもとまり)

日本美術を主な領域とするCultural Manager。小田原文化財団 甘橘山美術館 開館準備室室長。金沢工業大学客員教授。新聞、雑誌等への寄稿のほか、美術番組での解説、展覧会キュレーション、コンサルティングなど活動は多岐にわたる。近著に『かざる日本』(岩波書店)ほか、『美術でたどる日本の歴史』全3巻(汐文社)、『京都で日本美術をみる[京都国立博物館]』(集英社クリエイティブ)、共著に『世界を変えた書物』(小学館)、編著に『日本美術全集』第20巻(小学館)など多数。