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日本人の
自然観から生まれた
豊麗多彩な
「美と文化の祭典」

「日本博」企画委員会委員 高階秀爾

日本博とは、遠く縄文時代から現代に至るまでの歴史のあいだに生み出されたさまざまな「日本の美」の成果、例えば屏風や絵巻、埴輪や仏像、土器、陶磁器などの美術工芸作品、能、歌舞伎、舞楽などの伝統芸能や祭礼芸術、そしてそのような伝統的美意識を受け継ぎながら新しい表現を見せるモダン・アート、現代舞台、メディア芸術、さらには服飾、家具調度、ユネスコの無形文化遺産にも登録された和食文化、雛祭りなどの年中行事や地域ごとのお祭りなど、広く生活文化のあらわれをも含めて、多角的な視点から紹介する豊麗多彩な「美と文化の祭典」です。

このような豊かな成果に一貫して見られる日本人の美意識を支えるものは、日本の国土、その自然を敬愛する心情、つまり日本人の自然観にあると言ってよいでしょう。日本の随筆文学の傑作、清少納言の『枕草子』は、冒頭で、「春はあけぼの、夏は夜、秋は夕暮れ、冬は早朝」と、四季それぞれの自然の姿の魅力を讃えています。

事実、絵画表現においても、季節ごとに自然を豊かに彩る山川草木の雪景色や草花の多彩な美しさとそこに戯れる鳥たちを主題とした花鳥画が多くの傑作を生み出してきましたが、さらに、その自然のなかで農作業や収穫の喜びなど人間の営みを描き出した「四季耕作図」のような独自のジャンルまで登場させました。

春の花見、秋の紅葉狩りなどの主役である花木、あるいは春の七草、秋の七草などの可憐な草花の見せる多彩華麗な花鳥画の色彩表現が日本の絵画の大きな魅力ですが、その一方で、敢えて色彩を拒否して、墨一色で自然の姿を捉えた水墨画もまた、日本の絵画の重要な一面を示すものです。

しかし、その数多い水墨画のなかでも特に傑出した名品、雪舟の「山水長巻」でさえ、また「四季山水図」と呼ばれていることに明らかなように、厳格な筆法による山や谷の風景を通じて、春から夏、秋、冬とゆるやかに移り変わる季節を表現しています。

モネなど印象派の画家たちに大きな影響を与えた浮世絵版画になると、日本人の自然感情はいっそうはっきりと表れています。歌川広重の晩年の名作「名所江戸百景」は、「亀戸梅屋舗」や「両国の花火」など、人々の集まる賑わいの場所、つまり「名所」を個別的に主題としたものですが、広重の没後、版元がそれらの作品を「揃いもの」(シリーズ)にまとめた時には、春、夏、秋、冬の四部構成にしました。「名所」がいずれも季節の特色を示す自然景と結びついているからです。

現在でも大勢の見物客を集める人気の高い「両国の花火」は、もともとは悪霊や疫病を川の流れにのせて追い払うという願いをこめて、夏の到来を示す川開きの時期に行われるようになったものです。汚れを嫌い、清らかなものを愛好する日本人の美意識は、このような自然感情によって養われたものなのです。

川ばかりでなく、山もまた日本人にとって尊いもの、聖なるものとして崇められました。奈良の春日大社は、春日山連峰の御蓋山(みかさやま)をご神体としていますし、日本で一番古い大神(おおみわ)神社は、三輪山を崇めるものです。

北斎の「冨嶽三十六景」によって海外でも広く知られている富士山は、北斎ばかりでなく、多くの日本の画家たちによって描かれ、また衣裳の模様や工芸品の装飾にも好んで用いられました。それは、その秀麗な山容の美しさのためばかりでなく、古くから神聖な場所として人々に崇められてきたからです。富士山がユネスコの世界遺産に登録されたのは、その理由として、「信仰の対象、芸術の源泉」としての文化的価値が認められたからです。

日本人のそのような自然感情に養われ、生み出されたさまざまな美の成果を、文化のあらゆる面にわたって展開して見せる祭典が日本博なのです。

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