日本博皇居外苑特別公演 祈りのかたち 2021年3月12日(金)から3月14日(日)皇居外苑 皇居前広場日本博皇居外苑特別公演 祈りのかたち 2021年3月12日(金)から3月14日(日)皇居外苑 皇居前広場

江戸城と能楽

謡やお囃子が鳴り響いた江戸城

ビルに囲まれた都心にありながら、豊かな自然に包まれている皇居東御苑。
高く積まれた石垣を眺めながら橋を渡ると、そこはかつての江戸城。

堅牢な門をくぐり「入城」すると、四季折々に楽しめる花木が植えられている庭と芝生が広がり、周囲の喧騒を忘れるような静かな時が流れています。
大奥や松の大廊下跡など時代劇でおなじみの舞台も、想像を膨らませながら散策したくなります。

将軍の住まいだった本丸、将軍継嗣や隠居した将軍が住んだ西の丸、将軍生母などが住んだ二の丸など各所に、当時は能舞台があったそうです。

徳川5代将軍の綱吉と6代の家宣親子は、特に能を好み、しばしば自ら舞っていたとか!
笛や鼓の音色がにぎやかに鳴り響いていた江戸城が目に浮かぶようです。

二重橋

武士を鼓舞した舞

細川忠興、織田信長、豊臣秀吉ら戦国時代の名だたる武将たちにも親しまれた能。
江戸時代になると、武家公式の芸能「式楽」に採用され、幕府の儀式や祝いの席に欠かせないものとなりました。

かつて、皇居東御苑の本丸大芝生には、本丸大広間や表能舞台がありました。
正月には、将軍、徳川御三家、譜代大名ら約300名が集まり「謡初(うたいぞめ)」という、幕府の公式行事が行われていました。
将軍から盃を頂戴し、謡や舞を楽しみました。

「能の力強いリズムが武士に力を与えたのではないか」と能楽研究者の松岡心平東京大学名誉教授。
こうした一年の安泰を誓う行事が武士たちの結束を強め、約260年続いた太平の世を支えたのでしょう。

また、この時代には浮世絵や歌舞伎など今も愛される芸術や娯楽が生まれ、町民文化が花開きました!

錦絵「江戸城御謡初図」(国立能楽堂蔵)

雑芸から劇へ 進化した猿楽

写真の錦絵に描かれているのは、江戸城本丸の表能舞台で催された「祝賀能」の様子。
にぎやかな雰囲気が伝わってきます。
徳川宗家の当主が将軍職に就任する将軍宣下や婚礼などのお祝いの際には、武士だけではなく町人も江戸城にやってきそうです。

能はもともと庶民的な芸能でした。

歴史を紐解けば、能は中国の大衆芸能「散楽」が源流とされています。
8世紀頃(奈良時代)、当時の中国から伝わった散楽はアクロバティックな曲芸、手品、ものまね、現代のお笑いコントのような寸劇など多様なジャンルを含んでいました。
まさに雑芸です。

なかでも、滑稽芸は特に人気を集め、「猿楽」として発展していきました。
平安時代の「源氏物語」や「枕草子」にも、滑稽や冗談という意味合いで「猿楽言(さるごうごと)」という言葉が記されているそうです。
当時の猿楽は、現在の能より狂言に近かったのかもしれません。

ところが猿楽は、13世紀後半(室町時代)ごろから娯楽要素が薄れていきます。
新年の寺社の法会や祭礼で、天下泰平や五穀豊穣を願う「翁猿楽」が演じられるようになります。
猿楽に物語が加わり、仮面を用いるようになりました。
こうして、現在演じられている能が次第に形作られていきました。

錦絵「町人御能拝見之図」(国立能楽堂蔵)

武家政権と観世家のつながり

能楽は始祖の観阿弥が活躍した室町時代以降、変化する時代に向き合いながら、脈々と新たな風を取り入れてきました。
その背景には、能楽を文化として保護・奨励しようとした武家政権の庇護があったのです。

能楽の基礎は観阿弥とその息子、世阿弥が確立させました。
観阿弥がメロディーにリズムを加えた革新的なスタイルの「謡」を生み出し、世阿弥がそれに「舞」を加えたのです。
室町幕府を築いた足利将軍家には能の愛好家が多く、武家のたしなみとして後世まで広まります。
江戸時代には、観世を含む五座が江戸幕府の庇護の下、能をさらに洗練させました。

各座の大夫は幕府に仕える能楽師として、江戸城に登城し、将軍に稽古をつけることもありました。
観世家には、徳川家康や秀忠から拝領した狩衣や絵画が伝わり、将軍家との関係の深さがうかがえます。

9代家重と10代家治の時代、十五世観世元章(もとあきら)は能楽指南役につき、新しい演出や謡い方に工夫を加えるようになりました。
12日(金)に上演される「翁」の冒頭の「どうどうだらり」を濁音ではなく「とうとうたらり」と澄んで発音するのは、元章による工夫のひとつです。

二六世観世宗家観世清和さんは、先祖の故地であり、能のふるさとでもある江戸城での公演に向けて、「能楽の世界の『今』を見てほしい」と期待を込めます。
歴代宗家によるたゆまぬ努力と挑戦によってつながれてきた伝統は息子の三郎太さんに受け継がれています。

「翁」観世清和(撮影:二階堂健)
観世能楽堂